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「ウェルビーイング」とは?|欧米と日本の取り組み事例

目次

ウェルビーイングとは?

Well-being(ウェルビーイング)とは、フィジカル(身体)、精神、ファイナンシャル、ソーシャル面のトータルで健全である状態を指します。

Well-being(ウェルビーイング)は、幸せと訳されますが、同じ幸せの“Happiness”とは異なります。“Happiness”は感情的で一瞬しか続かない幸せですが、“Well-being”は持続する幸せです。

日本において経営面や人事面でウェルビーイングが使われる場合には、従業員一人ひとりが心身ともに健康的な状態であることが、会社組織としてもプラスに働くという概念として「健康経営」という言葉で使われることが多いです。

※昔から健康経営という言葉を掲げる日本企業はありましたが、現在の潮流である「ウェルビーイング」は、過去の健康経営よりだいぶ広い意味で使われています。

ウェルビーイングには、下記のような効果があると言われています。

ウェルビーイングの効果
  • 社員が健全な状態であることで幸福の度合が高まり、生産性をより向上させることができる。
  • そのような環境を提供している企業と社員との関係は強まり、ポジティブな企業風土の醸成ができる。
  • 従業員のエンゲージメントやリテンションを高め、雇用者としてのブランド強化につながる。

米国で毎年開かれている世界最大のHRカンファレンス「HR Technology Conference」では、既に2017年の基調講演で Josh Bersin氏(世界的に著名なHRアナリスト)が、HRトレンドとしてWell-beingについて言及しており、日本で昨今流行っているエンゲージメント中心の話題は終わり、次のステージとしてWell-beingが議論されていました。

欧米では以前より多くの著名企業がウェルビーイングに取り組んできました。

Deloitteの調査では、米国の66%の企業がウェルビーイング関連のプログラムが雇用者ブランドと企業風土に大きな影響があると考えているという結果が出ています。

グローバル向けのウェルビーイング市場は、年率平均7%で成長しており、2018年の536億ドルから、2026年には907億ドルに拡大すると見込まれています。

本コラムでは、ウェルビーイングの解説と、欧米での現状についてまとめます。

ウェルビーイング導入の背景

欧米でWell-beingが注目された背景には、下記のような理由があります。

(1)従業員の生産性、創造性を高めるための戦略

従業員の生産性や創造性が高まると言われています。ウェルビーイングがパフォーマンス向上に資するということを裏付けるエビデンスは増えつつあり、日本でも幸福学の研究で知られる慶応義塾大学教授の前野隆司氏が「幸福度の高い従業員は、生産性が1.3倍、創造性が3倍である」と述べています。

(2)企業の採用、ブランド強化の必要性から

1981年以降に生まれたミレニアル世代は、ウェルビーイングを重視すると言われており、 ウェルビーイングは給与と同じ報酬の一つとして認識されています。

労働市場の流動性が高い欧米では、SNSの発達により情報入手が容易になったこともあり、ウェルビーイングを整えておかなければ優秀な人材の獲得競争で優位な位置に立てなくなり、ビジネスに影響を及ぼすようになっています。

(3)エンゲージメントやリテンションを高める

ウェルビーイングは、業務・働き方に対する満足度や、企業・組織との一体感・信頼関係を高めるため、社員エンゲージメントやリテンションを高めることに繋がります。

(4)企業に求められる責任の変化

仕事と生活の境界線があいまいになるにつれ、身体・精神・金銭・根源的な価値観等の面でウェルビーイング向上の施策を用意することは、企業責任の一部でもあるという考え方が広がってきました。

ウェルビーイングの構成要素

ギャラップ社(米国の世論調査及びコンサルティングを行う企業)が、150か国以上を対象にグローバル調査を実施したところ、ウェルビーイングについて、5つの異なる統計的要因が明らかになりました。これらの要素は信仰、文化、国籍を越えて普遍的と結論付けられています。

① 仕事の幸福 (Career Wellbeing)

失業状態は肉親の死よりも心理的ダメージが大きく、仕事に熱意を持っていない人は持っている人よりも2倍うつになる。寿命も仕事の幸福次第で変わる。

② 人間関係の幸福(Social Wellbeing)

幸せは伝染する(逆にマイナスも伝染する)。職場に最高の友人がいる人はそうでない人に比べて7倍仕事への熱意があり、毎日6時間以上人と関わる時間があると幸福度が上がり、ストレスが下がる。

③ 経済的な幸福(Financial Wellbeing)

GDPと幸福度は相関性がある。自分が何かしたいと思ったときにそれが出来るお金を持っていることは幸福度を高める。

④ 身体的な幸福(Physical Wellbeing)

週に2日以上運動をしている人は運動していない人に比べて圧倒的にストレスが少なくなり幸せな気分で生活している。眠る前にイライラしていた人も熟睡できれば翌日は平均以上に良い気分になる。

⑤ 地域社会の幸福(Community Wellbeing)

自分が済む地域をより良くするための活動に参加することであなた自身の幸福度が向上する。お金を寄付する行為は他の人に心理的に近づいた気持ちやご褒美をもらった気持ちを起こさせる。
66%の人がこれらの分野の少なくとも1つを満たしていますが、5つ全てで満足しているのはわずか7%という結果でした。
※参考:『幸福の習慣』Tom Rath and Jim Harter

欧米でのウェルビーイングに関する新しい取り組み

フレックスタイム制や在宅勤務、休暇や育休の取りやすさ、長時間労働の是正やオフィス環境の改善といった労働環境の改善といった、従来からからある取り組みに加え、ウェルビーイングを促進するために、デジタルテクノロジーやプラットフォームへの投資を強化する会社が増えています。
ウェルビーイングに関するプログラム・福利厚生は、特に若年層の従業員にとって重要です。
例えば、グローバルでのCRMトップ企業であるSalesforceは、毎年7日のボランティア休暇を従業員に付与し、業務においても目的意識を持つことに役立てています。
国際的な食品メーカーであるダノンは、Dan’Caresプログラムとして、主だった重要疾病リスクをカバーする医療保険を提供したり、育児休暇を設定しています。

ウェルビーイング・コンテンツ

モバイルを介してオンデマンドでいつでもアクセスできるウェルビーイングに関するコンテンツ(ストレス対処法、子育て、高齢家族のケア、病気の予防・治療法など)の提供。

カウンセラーやコーチの利用

カウンセラーやコーチに相談することができるプログラムが用意されています。社員はチャットやビデオ会議などにより、それらのリソースへアクセスします。
多くの国の労働人口の過半数を占めるミレニアル世代(おおよそ1981年から1995年までに生まれた世代)が「セルフケア」にかける金額は、ベビーブーマー世代(おおよそ1946年から1964年に生まれた世代)と比べ2倍になっています。
これにより、マインドフルネス思考、認知行動療法、オンラインのパーソナル・コーチングや、 コーチングに関するアプリケーションが急成長しています。

ウェルビーイングの競争

競争の要素を取り入れ、社員のウェルビーイングに関するモチベーション向上を図る方法。エクササイズチャレンジ(例:歩行距離を競う)、マインドフルネス(例:連続で瞑想した日数を競う)など。
ウェアラブルデバイスを展開するFitbitは、米国で企業向けにエクササイズチャレンジを用いたウェルビーイングサービスを提供しています。個人による競争だけでなく、チームでの競争も取り入れ、みんなと楽しいポジティブな経験を共有出来る度合を高めるなど、工夫がされています。

コミュニティ

社員エンゲージメントやチームビルディングを促進するために、社員がお互いに励まし合い、コミュニケートし、企業とそこで働く人々と繋がりを感じることができるようにするオンライン、オフラインのコミュニティ形成も注目されています。
また、ボランティア活動への参加といった地域社会への貢献も会社のプログラムとして取り入れられています。

日本におけるウェルビーイングの未来

ウェルビーイングは個々人に関することなので、個人のニーズが変化すれば、ウェルビーイングも進化する必要があります。日本では日本独自のウェルビーイングプログラムの発展があり得るかもしれません。
社員に提供する報酬メニューのオプション的な要素ではなく、企業にとって取り組まなければならないテーマであることは間違いありません。
ウェルビーイングは、企業の採用力、リテンション、社員のエンゲージメント、組織の活力、生産性向上のための不可欠な要素になりつつあります。
人材獲得競争や、企業に求められる責任の変化は日本にも起こっています。
今後は日本においても欧米各国と同様に、エンゲージメント一辺倒で考えるのでなく、ウェルビーイングというより大きな概念の中で企業・人事が取り組んでいく形に変わっていくでしょう。

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