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上司と部下の対話を有意義なものにする方法|ナラティブ・アプローチの実践

1on1を導入する企業が増えていますが、対話を試みるものの、上司と部下ですれ違いが生まれてしまうケースは珍しくありません。
上司と部下の間の隔たりを埋める解決策として、「ナラティブ・アプローチ」という手法があります。
今回は、上司と部下の対話を有意義なものにする「職場でのナラティブ・アプローチ」について解説します。

目次

ナラティブ・アプローチとは?

ナラティブ(narrative)は、日本語で「物語」や「語る」という意味と、そうした語りを生み出す「解釈の枠組み」の2つの意味があります。
ナラティブ・アプローチは、医療や臨床心理の分野で1990年代に生まれました。

ナラティブ・アプローチが生まれる以前は、医師やカウンセラーなどの専門家が、専門家の立場で患者の問題を解決することが重要であると考えられていました。
「専門家は正しいことが分かるが、患者はそれが分からない」という前提があったためです。
しかし、そのような態度は、患者の苦しみを理解する妨げになっていることに一部の専門家たちが気づきます。
そこで「専門性を一度脇において、患者の話に耳を傾けてみよう」という新たな思想「ナラティブ・アプローチ」が生まれました。

ナラティブ・アプローチは、相手のナラティブ(物語、解釈の枠組み)に着目し、それを理解することを通して解決法を見出していくアプローチ方法です。
対話を通して、どちらかが妥協したりお互いが譲歩しあうではなく、双方の新しい関係性を構築することを目指します。

分かりあえない両者の溝を乗り越える方法であるナラティブ・アプローチは、多くの場面で応用ができます。
職場での「対話」においても非常に有益とされ、近年注目が集まっています。

誰もがそれぞれのナラティブを持っている

ナラティブ(narrative)とは物語と、その物語を生み出す「解釈の枠組み」です。

たとえば、心理療法の現場でカウンセラーが患者の話を聞く際、ナラティブ・アプローチでない従来の方法であれば、患者の言葉に耳を傾けるのは「患者の客観的な状態を把握するため」でした。

ナラティブ・アプローチでは、患者の話を聞くのは「患者の解釈」を理解するために行います。
患者が自分について語るとき、それは事実とは限りません。患者なりの解釈が多く含まれています。
解釈そのものに着目し、カウンセラーと患者で、新しい患者の解釈を構築することができれば、患者の状態が大きく改善されます。

マネジメントに置き換えて考えてみましょう。
上司は部下に対して「指導し評価する」「指示命令をする」ことを役割と認識しているとします。
一方で、部下は上司に対して「リーダーシップの発揮」「人材育成や業務フォロー」を求めています。
上司も部下も、「上司たるものこうであるべき」という暗黙的なナラティブ(解釈の枠組み)を持っている状態です。
そして、ナラティブが違う中で対話するから上手くいかず、それぞれが持っているナラティブと相手が違った言動をすると腹を立てたりしてしまいます。

ナラティブは、仕事上の役割や社会的な立場、世間的な職業規範や置かれている環境・文化によって誰しも形成されます。
自分のナラティブに立って相手を見ていると、相手が間違って見えることがあります。
しかし、どちらかのナラティブが正しいということではなく、それぞれの立場におけるナラティブがあるだけです。

対話において意識するポイント
  • 誰もが自分のナラティブを持っている
  • 相手のナラティブからすると自分が間違っているように見えることがよくある
  • 発言の根拠となる相手のナラティブを理解する

相手なりの正しさがあることを認める

「なぜ上司は自分のことをわかってくれないのか」「なぜメンバーは言うことをきいてくれないのか」そんな思いを持っている人は少なくありません。
この「わかりあえなさ」の背後にあるのは、職場における上司と部下のナラティブ(=解釈の枠組み)の違いです。対立は、「自分が正しくて相手が間違っている」という考えが前提にあり、相手のナラティブを理解しようとしていないことから生まれます。

上司も部下も、考えに至るプロセスが必ずあります。
相手のナラティブを知らずして、自分の考えをただ伝えるだけでは、お互いが異なるナラティブを持っていた場合は何も物事が進みません。
また、あの部署とはいつも意見が対立する、といったケースもあるでしょう。このような時も、両者は異なるナラティブに立って仕事をしている可能性が高いです。

自分の正しさを保留し、意見が違う相手には「相手なりの正しさがある」ことを認めることが、物事を進めるためには必要です。

ナラティブ・アプローチには「聴く」が重要

部下との対話を有意義なものとするナラティブ・アプローチでは、自分の主張をするのではなく「聴く」ことが重要です。

ここでの「聴く」というのは、相手が語っていることを受け止めるだけでなく、相手の状況も含めて相手をよく知ることを意味します。

たとえば対話をしていると、部下が言語化が難しい、まだ言語化できていないことを伝えようとしてうまく伝達できない場面に遭遇します。
その時、明確にできないでいる何かを理解しようと努め、上司はそれを言葉にしてお互いの接点をつくり、部下を理解しようとする姿勢が大切になります。

理解に困ったときは、どう理解したらいいか分からないから教えてくれと、素直に言ってみる。
相手の考え方を聴いても、自分がわからないで困っているならそのことを伝えることが必要です。
そこで違和感があるのなら、その「違和感の存在を認める」ことです。
お互いが分かっていないと同意することから対話の一歩が始まります。

「自分も同じ立場なら、同じような考えや行動をするかもしれない」と受け入れてみると、それまでと全然違ったことを自分も考え、語るようになるかもしれません。

悩みを抱えた相手へのナラティブ・アプローチでの対応方法

部下が悩みを抱えている(硬直した物語にとらわれている)ケースでは、どう対応すればよいでしょうか。

ナラティブ・アプローチでは「問題について相談する人」「解決法を教える人」という上下関係ではなく、本人の語りを出発点に、対話から、本人自身が問題を解決するきっかけを見つけ、考え方が変わっていくことを目指します。
ここでの対話とは、ナラティブに隔たりがあることを理解し、橋をかけるようなイメージです。
下記実践のポイントを参考にしてみてください。

物語の硬直性を変えるナラティブ・アプローチ実践のポイント
  • 語り手の語るナラティブを聞く/問題を抱えている人の悩みを聞き出す
    まずは相手の話をじっくりと聞きます。傾聴の姿勢で否定することなく受け止めます。
  • 問題を表に出す/本人がこだわっている点に注目する
    語られたナラティブから問題を表に出させます。問題が内在化している時は、自分を否定する方向に向かいがちなので、問題を客観視できるようにします。
  • 問を投げかける/角度を変えた質問で本人の見方を変える
  • ナラティブから外れる例外的な事柄を見いだす
    気づいていなかった例外的な事柄を自覚することで、相手は予想していなかった新しい見方を発見することがあります。
  • 新たなナラティブ、オルタナティブ(代替)ストーリーを構築していく
    新しい見方によってオルタナティブストーリー(新たなナラティブ)を構築できれば、本人が問題を乗り越える力を発揮できるようになります。

組織の中の問題は、ほとんどが対話で解決できる

いかがでしたでしょうか?
組織の中で起きる問題は、対立する意見の双方ともに正しいということはよくあります。
表向きの考えや言葉の対立ではなく、なぜお互いにそう考えるのか理解する。
そうすれば、それまでと違う考えやアイデアが生まれたり、具体的な方策が出てくるなど、必ずどこかに接点は見えてくるものです。

お互いに表面的に同意するような姿勢からは、対話は生まれません。
対話をおろそかにしては、部下のやる気は生まれず、何か問題があっても隠れてしまい、生産性は上がりません。
組織でのフラットな対話を生むために、マネジャーは部下が語れる組織風土を自ら率先して作っていきましょう。

参考:『他者と働く 「わかりあえなさ」から始める組織論』宇田川元一著

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