マネジャーに求められる支援の1つに「内省支援」があります。
業務を進捗させる業務支援、やる気を引き出す精神支援と並ぶ重要な支援で、内省支援はメンバーの成長促進に欠かせません。
しかし、実際の現場では、高い業績目標や業務過多などの影響で目先の業務をこなすことで精一杯になり、振り返りを行っていなかったり、マネジャーからすぐに指示やアドバイスをしてメンバーの内省機会を奪っていたりと、内省支援ができていないケースが多いです。
今回は、内省の意味と、メンバーの成長を促す内省支援のあり方について解説します。
内省とは?|内省と反省の意味の違い
内省とは、自分の考えや行動などを深くかえりみることです。
近い言葉に「反省」がありますが、その違いについて理解されていますか?
自分の考えや行動などを深くかえりみること。反省。
自分の行いをかえりみること。
自分の過去の行為について考察し、批判的な評価を加えること。
内省の説明文に反省があるように、基本的には「省みる」という行為で共通していますが、ニュアンスとして2つの違いが見て取れます。
批判的なニュアンスの有無
反省は、良くない言動を認識して、同じ過ちを繰り返さないようにという批判的なニュアンスを含みますが、内省には批判的なニュアンスはなく、客観的に振り返ることを意味しています。
(良い言動について、何が良かったのか振り返ることも内省です。)
振り返りの「深さ」
反省は、過去の行為について考察するのに対し、内省は「考えや行動などを深く省みる」とあるように、その言動に至った思考や感情まで含めて深く省みることを意味しています。
内省の重要性|経験学習サイクル
内省の目的は、経験を学びに変換し、次の行動に活かすことです。
振り返りをしないのは以ての外ですが、「できた/できなかった」という事実のみ確認する振り返りでは、経験からの学びがほとんど得られません。
成長実感が低い、能力やスキルが向上していないなど、成長の停滞感を感じてしまう1つの原因は、内省ができていないことなのです。
内省の重要性が謳われる背景には、組織行動学者のデービッド・コルブが提唱した「経験→省察→概念化→実践」という4段階からなる経験学習モデルがあります。
教育や人材育成の場面でも、体系化された知識を受動的に習い覚えさせる知識付与型の学習やトレーニングと区別して、実際の経験を通し、省察(≒内省)することでより深く学べるという考え方を「経験学習」と呼んでいます。
- 経験:具体的な経験をする
- 省察:経験を多様な観点で振り返り、意味づけをする
- 概念化:他でも応用できるよう抽象化・概念化し、持論とする
- 新しい試み:新しい場面で実際に試してみる(能動的に実践)
経験学習サイクルでは、経験を学びに変えるプロセスとして、省察(≒内省)と概念化が重要になります。
「できた/できなかった」の振り返りに留めず、「なぜそうなったか(原因・背景)」「どうすれば上手くできるか(持論・ルール・スキーム)」を考えることで、別の新しい場面でも応用できるノウハウ・スキルとして定着させることができます。
また、その学びを実際に試してみる機会も重要です。内省を経て学びを得た場合は、それを実際に試してみるところまでセットで考えるようにしましょう。
能力に合わせた内省支援|成人発達理論
内省は、客観的に思考や感情まで含めて深く省みることですが、メンバーの能力によっては、客観視することや、原因を深堀りしていくことが苦手で、意識させても能力不足で内省ができないことがあります。
そのためマネジャーは、メンバーの能力に合わせて内省支援を行う必要があります。
「成人発達理論」は、成人してからの知性や意識の発達を考える理論で、メンバーがどの段階か意識することで、必要な内省支援のあり方を検討するのに役立ちます。
自己中心的に、自分の関心や欲求を満たすことを考え行動する段階。
相手の立場に立って物事を考える力が不十分。
感情的になりやすく、チームワークが苦手。
<支援の方針> 二人称の視点を育てる
・ 感情的になりやすい相手に対して、自身も感情的になってはいけない
・ 客観視が苦手なので、他者・組織・会社といった視点で考えさせるよう問いかける
組織の意思決定基準に従って行動する段階。
相手の立場で考えられるものの、自分独自の価値体系が不十分。
自分の意見を持たない「指示待ち」に近い。
<支援の方針> 自分の考えを言語化させる
・慣習的に行っている仕事について、その仕事の意味やより良い業務プロセスを考えさせる
・新しく任せる仕事について、進め方をメンバーに考えさせ、その意図を問う
・状況や結果の報告だけの場合、「それを踏まえてどうする?」とメンバーの考えを問う
自分なりの価値体系や意思決定基準ができ、自律的に行動できる段階。
自らに内省的な問いを発して、自分自身を合理的に律することができる。
一方で、自分の価値観に縛られ、異なる価値観や意見を受け入れにくい。
<支援の方針> 既存の価値観を一度打ち壊す(アンラーン)
・相手には相手なりの価値観や論理があることを認め、自分と異なる意見の裏にある価値観や論理を考えさせる
・既存のやり方を一度崩し、別の手法を検証させる(標準化やテクノロジー活用などのミッションを与える)
・異質な他者との接点を作る(新しいプロジェクト、異業種の交流など)
多様な価値観や意見を汲み取り、他者と関わり合い互いの成長を促す。
他者の成長支援が自分の成長につながるという考えを持つ。
この段階に達してはじめて、人と組織の永続的な成長を促す、真のリーダーになれる。
成人の7割が②他者依存段階、④自己変容段階は1%未満と言われています(※)。
一般的な企業の人員構成では、新人〜若手メンバーが①、中堅〜ベテランメンバーが②、マネジャーや部長が③、事業トップが④というイメージです。
メンバーがどの段階にあるか把握し、それぞれの能力に合わせた支援を意識してみてください。
※参考:加藤洋平『組織も人も変わることができる!なぜ部下とうまくいかないのか「自他変革」の発達心理学』
内省支援の注意点|シングルループ学習、ダブルループ学習
組織における学習プロセスには、シングルループとダブルループの2種類があります。
振り返りを行っている場合も、その内容がシングルループ学習となり、内省を通した深い学びができていないケースが多いです。
メンバーの成長を促す内省支援では、ダブルループ学習が欠かせないため、注意してください。
シングルループ学習
行動の結果から、問題解決を図り、その過程で学習するという考え方です。
行動した結果が想定より悪かった時に、次は時間を変えてみよう、話す順番を変えてみよう、もっと行動しようなど、行動の質や量を変え、改善を繰り返すことで目標達成を目指していくイメージです。
メンバーの思考力を問わず解決策(how)が思いつけば行動できるので、業績達成目的で行う業務支援でよくみられるループです。
メンバーの学びという面では、試行錯誤する中で様々な経験を積んだり、最後は行動量担保でなんとか目標達成させたりと、行動力や粘り強さの面での成長は望めます。
ただ、経験則が活かせる同じ業務では成果が出せるものの、別の仕事になった際の応用力が身につきにくく、経験に基づき感覚的に行動しているため、言語化したり他者に教えることが苦手になりやすいです。

ダブルループ学習
結果に基づき、行動を改善して目標達成させようとする姿勢はシングルループ同様に持ちつつも、内省することで、行動の良し悪しだけでなく、目的や前提条件にまで戻って深く考え直します。
目的に照らして、
「何が問題か(what)」「どこに問題があったか(where)」と問題点を特定し、
「なぜそうなったのか(why)」と原因や背景を考え、
「どうすれば解決・改善できるか(how)」と解決策を導くことで、問題解決力が磨かれます。
また、「どうすれば次(も)上手くできるか」と成功のための意識や行動・ルールなどを持論として抽象化・法則化することで、応用が効くノウハウとして定着させることができます。

いかがでしたでしょうか?
内省は、客観的に、深く省みること。
新人や若手メンバーに対する業務支援ではシングルループ学習も必要ですが、ある程度経験した中堅からベテランメンバーには、ダブルループ学習で内省を促すさせることが必要です。
メンバーの振り返りが、成長につながる内省になっているか。
自身の内省支援は、メンバーの能力にあった支援になっているか。
ぜひ一度、内省してみてください。