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中間管理職に変化を起こす方法|マイケル・ウェイド氏に学ぶ組織論

先日発表された2020年版のIMD(スイスにあるビジネススクール)の世界競争力ランキングで、日本は過去最低の34位となりました。
IMD「世界競争力年鑑」は、代表的な国際的ランキングで、63カ国・地域を対象に、国の競争力に関連する統計やアンケート調査などを幅広く収集し、これらを元に競争力総合指標を作成しています。
日本の総合順位の変遷を見ると、1989年からバブル後の1992年まで1位を維持し、1996年までは5位以内の高い順位でした。
しかし、山一證券の破綻を始めとした金融危機が勃発した1997年に17位に急落。その後は基本的には20位台の中盤前後で推移し、2019年には30位となり、最新版の2020年では過去最低の34位まで落ち込んでいます。
今回は、DX分野の第一人者と呼ばれ、IMDで今最も多忙と言われるマイケル・ウェイド教授の著書『DX実行戦略〜デジタルで稼ぐ組織をつくる』から、日本企業が抱える課題と「中間管理職」について紐解きます。

中間管理職に変化を起こす方法|マイケル・ウェイド氏に学ぶ組織論
出典:IMD「世界競争力年鑑2020」より三菱総合研究所作成
目次

変化に対する順応性、そのスピードが最下位の日本企業

日本は世界競争力ランキングの全体順位は34位でしたが、「起業家精神:マネジャーの起業家精神がビジネスに広がっている」、「企業の俊敏性:企業は俊敏である」という項目が最下位と、日本はアフリカ諸国や南米の国々より下という結果でした。
日本は、ロボティクスや通信技術、AI(人工知能)といったデジタル技術では、世界で上位の競争力を持っていますが、一方で、変化に対する順応性、組織文化の変えやすさや、そのスピードに問題がある状況が浮かび上がります。

変化が必要なことに危機感を持てない中間管理職

実際、社長やリーダー層が、変わらなければならないと分かっていても、2〜3階層下の中間管理職層は、危機感を持てていません。
日本の中間管理職には、先に上げた「起業家精神」や「俊敏性」だけでなく、外国人や女性の比率は国際比較で極端に少なく「多様性」が欠けています。同調査では「多様性」についても日本は最下位です。
多様性という点では、人種や性別だけでなく、そもそも企業外で育った人材が社内で少なく、同じ組織で育った人間が大半であるという状況があります。
総務省統計局のデータでは、男性の2割が50歳まで転職経験が0、転職回数が2回までで75%を占めます。それに対し、米国では平均転職回数が10回です。
企業は、早期退職の募集やシニア層の人員を減らしたいと考えていながら、転職回数が3回を超えてくる人材には、長く働いてくれない可能性があると、能力関係なく応募の際に足切りする慣習が未だに多くの大企業で残っています。
終身雇用文化が長らく続いたため転職が当たり前でなく、人材の流動性が国際比較で著しく低い日本では、新しい人や考えを取り入れる機会が少ないため、変革を起こすのがそもそも難しい風土があるのです。
その結果、企業に対する忠誠心は高くハードワーカーではあるが、新しいことに興味を持たず、俊敏に動く必要を感じない中間管理職が、企業の変革を止めてしまう構造となっています。

いかにして中間管理職に変化を促すのか?

トップが中間管理職に対してよく漏らす不満は、中間管理職は動きが遅い、何も新しいことに動かないということです。
しかし、それはそのような組織に責任があります。そう行動するほうが良い仕組みがあることが問題なのです。
では、いかにして中間管理職に変化を促せばよいのでしょうか?
既存のシステムの中で忠実に働いている中間管理職を責めても、問題は解決しません。
そして、組織で長く働いている中間管理職は、皆社内でのゲームの仕方は心得ており、システムに合うように動いています。

中間管理職は、決まったルールに合わせて動くことが得意です。
そのため、既存のシステムをトップが実現したい目的に相応しいものに変えてしまい、中間管理職に「変えた方がよい」と思わせるインセンティブを与える。ゲームのルールを変えることが必要です。
具体的には、組織構造や人事制度、評価制度、文化、従業員や顧客との関わり等の複数の要素がこれに該当します。年功序列型賃金やヒエラルキー型組織は、変化を拒む最たるシステムです。
ルールを変えずに、変化を声高に叫んでも実現は難しいのです。中間管理職が自発的に変化していくことはまず期待できません。

新規事業部門を創設したものの人材が流出してしまった事例

ある大手企業では、社内から新しいビジネスが生まれない現状に危機感を抱き、イノベーションを促進しようと新規事業部門を立ち上げました。社内で優秀な管理職やメンバーが手を上げ、会社のエースが集まりした。
しかし、その組織は大した成果も上げられないまま、時間が経つにつれ、人材がどんどん社外に流出してしまいました。
どうしてそのようなことになってしまったのでしょうか?
その企業では、新規事業部門も、人事制度や評価制度を既存の事業と同じまま運用しました。
その結果、しばらくすると既存事業の管理職が、新規事業の管理職よりどんどん早く出世するという現象が頻発しました。
また、チャレンジをした新規事業の優秀な人材は賞与も低く、既存事業に留まった方がはるかに良い金銭的リターンを得ることができたという状況でした。
そのようなことが不満となり、優秀な人材が社外に流失してしまったのです。
これは、実現したい目的に合わせたシステムやルールを作ることなく、社員にチャレンジを求めたため、インセンティブが設計されていないことで起こっています。
また、新規事業にチャレンジしている管理職を見て、他の既存組織の管理職にも変化が起こるというようなことも一切ありませんでした。
ルールを変えていないのに、ただ変化を声高に叫んでも、組織において変化を実現することは不可能です。

システムやルールをどのように変化させるかを考えることが重要

変化が起こらない組織においては、ほとんどの場合、中間管理職は変化するインセンティブを持っていません。システムやルールの最適解として、何もしないことが動機づけられています。
そのため、経営・人事レベルから、「自らを変えることが組織においてプラスとなる」インセンティブを作り出すことが必要になります。
中間管理職に変化を促すには、直接的に管理職にアプローチして変化を促すのではなく、今の会社のシステム、ルールはどういったものが存在しているのかを把握し、目的を実現するにはどういったシステムを作らねばならないのか? そのための制度や仕組みはどうしていくべきか?を考え、変えていくことが必要です。

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