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変化に適応し、イノベーションを生む組織論|ダイナミック・ケイパビリティ理論

ダイナミック・ケイパビリティという言葉を聞いたことはあるでしょうか?
カリフォルニア大学バークレー校経営大学院教授のデビット・ティース教授が提唱し、経営学の世界で近年最も注目されている理論の一つです。
本理論は、企業が変化し、イノベーションを起こすにはどうしたらよいのか、について述べられています。
今回は、「ダイナミック・ケイパビリティ理論」から、変化に対応できる組織のあり方について解説します。

目次

ダイナミック・ケイパビリティとは

ダイナミック・ケイパビリティとは「組織とその経営者が、急速な変化に対応するために、内外の知見を統合し、構築し、組み合わせ直す能力」です。

具体的には、下記3つが理論の核となっています。

ダイナミック・ケイパビリティ理論の3つの核
  • センシング(sensing):市場で事業機会や脅威を察知する
  • シージング(seizing):価値創造のため、人材や資産を動かして競争優位を獲得する
  • トランスフォーミング(transforming):経営手法を日々改善しながら、定期的に主要な戦略を変容させていく

そして、ダイナミック・ケイパビリティを実現するためには、「分権化」と「自己組織化」が鍵になります。
分権化とは、組織の上下関係が緩くフラットで協働する組織。
自己組織化とは、分権化が進んでいるため、チャンスを見つけると俊敏に社内起業の形でビジネスがはじまることを指します。
ティース教授は、分権化と自己組織化によって、センシング、シージング、トランスフォーミングが効率的に可能となり、その結果、迅速さとチーム力、起業家的志向、高い業績を組織にもたらすと考えました。
また、俊敏に変化に対応するダイナミック・ケイパビリティが高い組織は、分権化と自己組織化が自然に進むとも述べています。権限を委譲された個々が、自然に最適化に向かって進化していくのです。

ダイナミック・ケイパビリティを取り入れたハイアール|人単合一モデル

家電の世界シェアが20%を超え、グローバルNo1となった中国家電メーカーのハイアール(Haier)は、ダイナミック・ケイパビリティ理論を取り入れた企業の一つです。
同社は、「人単合一モデル」(個人単位の市場目標を統合する)と呼ばれる独自の経営モデルを導入しています。
この「人単合一モデル」は、ハイアールに大企業でありながら、起業家集団としての顔を持たせ、競争優位性を生み出しているとして注目されています。
ハイアールの張会長は、ダイナミック・ケイパビリティの論文を読んで自社の組織、人単合一モデルの参考にしました。
ハイアールはシリコンバレーの企業以上に、組織の上下関係が緩く、フラットになっており、分権化が非常に進んでいる組織とされます。
ハイアールの経営モデルである人単合一には、ダイナミック・ケイパビリティの3つの核が埋め込まれています。

① 開発に顧客を巻き込み、センシングを実現

ハイアールは、グローバルで統一した製品を出すのではなく、各国の顧客ニーズに合わせて開発を行っています。例えば、インドでは「腰を曲げなくてよい冷蔵庫」がヒット商品になり、中国では農家が洗濯機でサツマイモを洗っていた行動から「野菜洗浄機」という大ヒット商品が生まれました。業界関係者からすると非常識のような考えでも、同社は顧客の行動を非常識なものとして切り捨てるのではなく、顧客を起点に開発を行っています。

② 機会を見つけると即人材と資産を動かしシージングを実現

張会長のリーダーシップと、組織構造をほぼフラットにし分権化しているため、機会を見つけるとアジャイルに社内起業の形でビジネスが始まり、市場を取りに行く。

③ 必要ならば、組織や戦略トランスフォーミングさせる

日本企業はダイナミック・ケイパビリティを高める必要がある

ダイナミック・ケイパビリティの反対の概念に、オーディナリー・ケイパビリティというものがあります。
ダイナミック・ケイパビリティが「物ごとに正しく取り組む」能力で在るのに対し、オーディナリー・ケイパビリティは、「物ごとを正確にやり遂げる」能力を指します。
ダイナミック・ケイパビリティの3つの核は「センシング(察知)、シージング(獲得)、トランスフォーミング(変容)」でした。
一方で、オーディナリー・ケイパビリティの核は「実務、管理、統治」です。
両者はトレードオフの関係であり、日本企業や日本社会は、オーディナリー・ケイパビリティが強すぎる傾向があります。
研究結果によると、ビジネスモデルが同じでも、ダイナミック・ケイパビリティの強弱で、変化対応力に差が出るとされます。
VUCAの時代、不確実な環境下で変化対応力を上げていくには、ダイナミック・ケイパビリティの強い組織を作ることが欠かせません。

ダイナミック・ケイパビリティは企業のイノベーションの解

テクノロジーの進化、イノベーションのスピードが早くなり、起業家的な面を持たない企業はイノベーションについていけなくなっています。
昨今の新型コロナウィルスによって、デジタル化は10年早く進んだとも言われ、企業活動や生活様式の変化は皆さんも実感するところかと思います。
大企業が変化への対応力を高め、イノベーションを起こせる組織を作るためには、組織構造やマネジメント、リーダーシップのあり方を変化させる必要があります。
変化への対応力が高い組織、イノベーションが生まれる組織を作るために、ぜひダイナミック・ケイパビリティの考え方を参考にしてみてください。

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